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農業は「アンチ・シンプルライフ」

風に吹かれ、気の向くまま。
そうだ、そろそろあの野菜が収穫できるだろう。
クワ一本だけをかかえて畑に……。

……などという牧歌的な農家はいない。
趣味ならまだしも、商業的に利益を出そうとすれば、
大量の道具が必要になる。クワ一本ではとうてい無理だ。

農業にはとにかく大量の道具がいる。
事務作業をしている会社員では想像がつかないほど。

ここに我が家の倉庫の写真がある。
ちなみに倉庫は4つ(ビニールハウスは除く)。

大量の工具。壊れた道具は基本的に自分で修理する。

大量のバッテリー類。農業機械もエンジンから電化が進んでいる。

何千枚とあるの育苗箱。田植えで使用する。

おびただしい量の農薬類。これの効能を覚えるのにどれだけ時間がかかるだろう。

農薬散布に使用するポンプなど。

鎌などさまざまな器具。こんなにいるの……

タンクや一輪車など。一輪車を上手に押せたら一人前。

トラクターその1

トラクターその2。なぜ2台あるのかはナゾ。

稲作に使用する肥料など。これでも一部。

電動の運搬車(一輪車の代わり)。ちょっと使いづらい。

メロンをきれいにする機械。いまはほぼ使っていない。

クワだって一本どころじゃなく、何本もある。

大量のパイプ類。いざというときにないと困る。

トラクターにつけて肥料をまくための機械。これもやっぱり複数ある。

大量の作業着。TPO?に合わせて使い分ける。

大量の帽子。もちろんTPOに合わせて使い分ける。

稼働しているところを見たことがないミニショベルカー。

なんのために使うのか見当がつかない道具も山ほど。

自分で農業をやることになるまで、
家にある道具なんて、米粒ほども気にしていなかった。
しかし、あらためて見直してみると「絶望」しかない。

これらをすべて使いこなすのは農家として最低限のスキル。
そしてさらに、気候を読み、市場を読み、
1年をとおして1回のギャンブルに勝つことで、
やっとわずかな利益を得られるって、無理ゲーじゃない?

このところ実家に届く「農業新聞」に目を通すようになった。
毎日毎日、これでもかというほど新しい農機具の広告が掲載されている。

とうもろこしの皮をむくだけの機械、
狭い畝の草刈りに特化した草刈り機、
さまざまなバッテリーに対応した充電器、
剪定しやすいように改良されたはさみ、
ホースがからまないように設置するガイドなどなど。

一年中、同じように野菜が並んでいる状況からは考えられないかもしれないが、収穫に適した時期というのは恐ろしく短い。限られた時間と限られた人手では収穫するには、どうしても大量の、しかも高価な道具が必要になる。

農作物を大量にさばくということは、
よりよい道具を入手し、上手に使えるかという点にかかっていると言っても過言では無い。

ただ、道具を買うにはカネがいる。
カネを稼ぐには、収量を増やさなければならない。
収量を増やすには道具がいる……。このイタチごっこから抜け出すのは難しい。

大工が多くのカンナを持つように、
魚屋が多くの包丁を持つように、
画家が多くの画材を持つように、
プログラマーが多くのPCを持つように、
やはり農業も様々な道具を試しつつ、手元に置いておく必要がある

農業は「シンプルライフ」だなんて幻想だ。
無印良品の広告にあるような世界なんて、農業の現場からはほど遠い。

それでもやはり今日も良い道具がないかと、日本中、いや世界中の農家が思案している。

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